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NO 4
Exploring Japanese Brands & Trends with the works of Kashiwa Sato
JUNE 2, 2021
デザイナーの佐藤可士和

最近日本で話題になった佐藤可士和展を参考に日本のいくつかの企業の現象について探りたいと思う。ユニクロ、三井物産、セブン&アイ:これらの企業のためにデザインする時の条件は大きく異なっている。


企業の話の前に展示の主役の佐藤可士和と言うデザイナーについて紹介したいと思う。佐藤さんは多摩美術大学から卒業後、博報堂に勤めていた。そして、2000年にクリエイティブスタジオ「SAMURAI」を設立して、広告からブランド戦略に到るまで様々なクリエティブ分野に携わっている。

佐藤さんのブレイクスルー作品*
HONDA ステップワゴン


前述した企業の他に、日清や楽天のような一流企業にもディレクターとして担当した佐藤さんが初めてブレイクスルーした作品は1996年HONDAのミニバン「ステップワゴン」のキャンペーンである。

「ステップワゴン」は先行するライバル車と比べて際立った特徴のない広告の難しい車だ。また、当時商品のスペックや車の用途を想起させるシチュエーション写真を用いた説明的な広告が主流だった。しかし、「ステップワゴン」はスペック面での差別化も難しい状況下で、競合他社を凌駕するマーケティング戦略が求められていた。この困難な状況の中で佐藤さんは従来の自動車広告の概念を覆すブランド戦略を展開した。

「こどもといっしょにどこいこう。」のコピーとともに、家族で一緒に出かけるという何事にも代えがたい経験を、絵本を思わせるカラフルなイラストレーションで表現した。HONDAブランドや商品の写真を押し出すのではなく、家族を持つ誰もが感じたことがある喜びや幸福感を、広告を通して追体験してもらうことで、消費者の印象に残ったと思う。






結局、CMは大きい話題になり、車も年に10万台を売るヒットとなった。


佐藤さんの代表作*
ユニクロ

今海外進出が大成功と言われているユニクロは実は一時失敗したことがある。2001年からイギリスで21店の中の16店舗を閉店し、中国やアメリカの利益も不安定だった。ユニクロの創業者柳井正さんは2006年に佐藤可士和が出演したドキュメンタリーを見たら、すぐ連絡したらしい。

佐藤さんはニューヨーク·ソーホー店からユニクロ世界戦略のクリエイティブ·ディレクションを担うことになり、新しいブランドアイデンティティから、広告まで手がけた。佐藤さんの関わりは今ユニクロの成功の一つ大きな要因だと言っても過言ではないと思う。

世界的なアパレルブランドのZARAとH&Mは、自国スペインやスウェーデン発祥であることを前面に出していることに気付き、柳井さんは佐藤さんに「日本の良いところを押し出していかないと勝てないと思う」と言った。 そこで、佐藤さんは、日本メーカーが作り上げたモノ作りのイメージと、漫画やアニメなどのポップカルチャーのイメージを融合したロゴを考えることにした。結局、読めないが何となく日本語であることが理解されているカタカナを使い、現在でも幅広く認識されているロゴマークになった。

それ以来、「UT」、「+J」、「ビックロ」などユニクロのヒットキャンペーンやコンセプトを数々出してきた。この15年間続いてきた関係から、クリエイターとクライアントの信頼と相乗効果が見える。

BtoB企業のブランディングの幕開け*
三井物産

佐藤さんが担当した三井物産のブランディングは、2014年にスタートした。当時三井物産のようなBtoB企業が本腰を入れてブランディングを行うケースは珍しく、ある意味、異例であった。現在非常に多くのBtoB企業がブランディングを行なっていることを考えれば、三井物産の取り組みはブランディングがBtoB/BtoCと言う枠を超えて広がる時代の幕開けを告げていたと言えるかもしれない。

BtoB企業のブランディングの幕開け*
三井物産

ブランドコンセプトやコーポレートロゴから社員と一緒に考えた広告に至るまで佐藤さんは様々なディレクションをやり遂げた。 特に広告についてあげたいと思う。広告のプロジェクトメンバーは、当時の15の営業本部から自薦·他薦により編成された。それぞれの通常業務を行いながら、時間を作ってディスカッションを重ね、佐藤さんとのセッションに臨んだ。自らの本部の強み、提供価値、進むべき方向性などを徹底的に掘り下げる。それを自らの言葉で具体化し、最も効果的に伝えるビジュアルを考える。

この全体のブランディングで改めて商社のような複雑なBtoB会社のブランディングの目的を見直せる: 各部門にいる数多くの社員にとって誇らしく思える統一されたイメージを作る、一般人に三井の事業を理解させる、海外での認知度を上げるなどの目的が考えられる。

スケールや珍しさなどから見ると、このプロジェクトは色々な意味でお手本になっただろう。 特に面白いと思うのは三井物産のブランディングスタートから6年の2020年に著名投資家ウォーレン·バフェット氏が率いる米バークシャー·ハザウェイは三井物産の株8.7%を取得した。バフェット氏が投資した先はいつも注目されて、今回も例外ではない。三井物産の未来を期待するべき証拠ではないかと思う。

なぜセブン&アイ?

佐藤さんが担当したセブンーイレブンのプロジェクトについて語る前に、ずっと前からあった疑問について説明したいと思う。 日本人はすでにわかるかもしれないが、私は初めて来日した時に思った。
『なぜセブンーイレブンだけでなくセブン&アイなの?』 掘り下げてみたら、理由がわかった、企業買収防衛のためだ。

セブンーイレブンは元々アメリカの企業だが、1991年にイトーヨーカ堂に買収された。イトーヨーカ堂の子会社なのに、繁栄しすぎて親会社との関係がややこしくなってしまった。 イトーヨーカ堂の株式時価総額は上場している子会社のセブンーイレブン・ジャパンの株式の時価総額の半分程度しかなかった。 子供が親より成長してしまった時と言うことである。これは「ねじれ現象」と言う。 では、なぜねじれ現象は解消されねばならないのか。

解消しなければ、買収の対象とされやすいと言うのである。 つまり、株価の低い親会社のイトーヨーカ堂株を買うことで、子会社であるセブンーイレブン・ジャパンを格安で買収できると言うのだ。 そこで、このねじれ現象を解消し、敵対的買収に備えるために、持株会社が利用されるようになったのである。持株会社を設立することによって、企業価値を向上し、発行済株式数の増加を通して敵対的買収から会社を守るのである。こういった理由でイトーヨーカ堂の株主及びセブンーイレブンの株主が、共同で株式移転によってセブン&アイ・ホールディングスを設立した。

1700を超えるアイテムのデザイン戦略*
セブンーイレブン


佐藤さんはセブンーイレブンのプライベートブランドのリブランディングを担当した。セブンはナショナルブランドに対する価格優位性に頼らず、品質やイメージを高めていくために、1700を超えるアイテムのデザインリニューアルを行った。

膨大な数にも関わらず、佐藤さんは商品のカテゴリーなどによって細かいルールを設定した。文字のスタイリング、写真の撮り方、レイアウトなど。 このようなこだわりで成果を出したデザインになっただろう。ブランディングをした前後7年間の年間売上高を見ると、ブランディング後平均の売上高は3.34%から6.82%に伸び、過去最高益を継続的に更新。

佐藤さんはこう言った:「ルールに則ってデザインが生成されるため、SAMURAIはイレギュラーなものや判断が難しいケースの対応をします。例えば中身は違うけど見た目は似ているパンなどには断面図を入れるなど、その都度ルールを改定していく。ルールができたらおしまいではなく、ブランドイメージをキープしながらアップデートする。難しい仕事ですが、これだけの商品群をデザイン管理するには、柔軟さと厳しさの両方がなければバラバラになってしまうでしょう」

まとめ

佐藤可士和の作品の中に「デザインはどこ?」と考えさせるものすごくシンプルなデザインもあれば、複雑で緻密なデザインもある。この極端なコントラストの中にブレないのは実際の効果や目的を果たすための配慮。自分の美学を裏切っても、当たり前を覆してもいい、本当の意味でクライアントにとって一番効率的な戦略を図る。この素直さこそはデザインだと僕は思う。佐藤さんの堂々とした態度、図々し物言いから学べることは多いだろう。


持株会社の実務 第7版
2015年2月26日発行
發知 敏雄 (著), 箱田 順哉 (著), 大谷 隼夫 (著) 東洋経済新報社